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せいしまんじどもえ

生死卍巴

国枝 史郎

「雄弁」1928(昭和3)年9月~1929(昭和4)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 91,598 字 · 182 页

青空文庫

小魚の姿を浮き出させていた。

一筋の日光が落ちかかって、首を下げている浪江の頸の、後れ毛を艶々しく光らせていたが、いたいたしいものに見えなされた。

そういう浪江と寄り添うようにして、腰をかけている茅野雄の大小の、柄の辺りにも日が射していて、鍔をキラキラと光らせていた。

その前に立っている弦四郎の態度の、毒々しくあせっていることは! 両足を左右にうんと踏ん張り、胸へ両腕を組んでいる。

と、そういう弦四郎であったが、にわかに磊落に哄笑した。

「アッハッハッ、ごもっとも千万! 浪江殿の婿様でござるゆえ、浪江殿が自身で選ばれるのが、当然至極でございますとも。……そうなると拙者は方針を変えて、慾の方へ走って行くでござろう」

「慾? なるほど! どんな慾やら?」

茅野雄には意味が解らないようであった。

「慾は慾なりでございますよ」

こう云う弦四郎は眼を走らせて、遥かの彼方に森林に蔽われ、頂きだけを出している、洞窟のある岩の山を、意味ありげに眺めやった。

「あそこの洞窟の中にある、神殿の内陣へまかり越し、値打ちあるものをいただくという慾で」

この意味も茅野雄には解らなかったらしい。