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せいしまんじどもえ

生死卍巴

国枝 史郎

「雄弁」1928(昭和3)年9月~1929(昭和4)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 91,598 字 · 182 页

青空文庫

「まずお聞きなさりませ」

半田伊十郎は話し出した。

「ご貴殿のお指図がありましたので、昨夜より私茅野雄めの邸を、警戒いたしましてござります。ところが今朝になりまして、にわかに旅支度をいたしまして、茅野雄には邸を立ちいでましたので、すぐに私事玄関へかかり、茅野雄の友人と偽わりまして、行く先を詳しく訊ねましたところ、僕らしい老人の申しますことには、飛騨の国は高山城下より、十五里あまり離れましたところの、丹生川平という一つの郷へ、参りました旨語りましたので、早速お耳に入れたく存じて、お邸へ参上いたしましたところ、ご外出にてご不在とのこと、そこで止むなくお約束の場所の、ここでお待ち受けいたしますうちに、お姿をお見かけいたしましたので、馳せ参った次第にござります」

「そうか」と、それを聞くと醍醐弦四郎は、大きく一つ頷いて見せたが、

「すぐ俺も出立しよう」

「は、ご出立? でどちらへ?」

「云うまでもない、丹生川平へよ」

「茅野雄の後を追いましてな」

「素晴らしい何かを求めてだよ」

「で、我々一党の者は?」

「出立々々、同時に出立!」

「かしこまりましてございます」

――で、二人は引っ返したが、この頃松平碩寿翁においては、刑部屋敷の露路の口で、一人の若者と話していた。