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とめさんとそのおんな
留さんとその女
山本 周五郎
「アサヒグラフ」 1935(昭和10)年9月4日号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,799 字 · 14 页
ある晩、留さんはひどく真面目な顔つきをして高梨の奥さんを訪ね、貯金通帳を返してもらいたいと頼んだ。
「これで五度目ですよ、留さん」
と高梨の奥さんは云った、「あたしはもう何も云いません、今度こそしっかりして騙されないようにしなさいよ、もうおまえさんも八ですからね」
「分ってるだよお神さん」
留さんの本気な顔がそのときひときわ黒く輝いた、「今度こさ大丈夫ですよ、本当だよ、ずっとめえからの馴染なんだから」
「どこの女なの?」
「潮来で勤めていただ」
留さんの話すところによれば、彼女はながいこと潮来で遊女をしていたので、留さんとは三年このかたの深い仲――そう云ったとき留さんの眼は恥しそうにうるんだ――なのであった。二人はきわめてたまにしか逢う機会がなかったにかかわらず、ゆく末はかならず夫婦になろうと約束していた、そこで今度女の年期が明けたので、約束に違わず遙々とやって来たものであるという。
「まるで紺屋高尾みてえな話さ」
留さんはいい機嫌に笑った。
けっこうである、高梨の奥さんは貯金通帳を返してやり、いくらかの御祝儀をそれに添えた。留さんは秋鯊のように喜びでふくれながら帰って行った。