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とめさんとそのおんな
留さんとその女
山本 周五郎
「アサヒグラフ」 1935(昭和10)年9月4日号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,799 字 · 14 页
三十五号船は一日おきに塩崎と高浦で繋船する、栗橋はその中間にある小さな村で、どちらからも一里半ほどの距離があった。一里半が何であろう、高浦泊りのときは高浦食堂の自転車――空いていさえすれば――を借りるし塩崎泊りのときは河岸伝いに歩いて、とにかく彼はかならず家へ寝に帰るのであった。
終航の船が繋がれる、さあ急がしい、留さんは褌ひとつになって船の上を駈け廻る、あっちへ走るかと思うとこっちへ、箒を投出す、バケツの水がはねる、煙草いっぷくの暇もないのだ。掃除がすむともう留さんは栗橋のほうへ気もそぞろに走っている、――ときによると往復の余裕が二時間ほどしかないことがあった。それでも留さんは家へ帰るのだ。
「なにしろ」
と彼は云う、「なにしろおっかあのやつあ、針が持てるじゃなし字が読めるじゃなし、一日見ねえことにゃ退屈して死んでしまうとぬかすだからね、しょうがあんめえ」
かように留さんが気をよろしくしている一方、蒸汽乗り仲間では賭けが行われようとしていた。今度の女がいつ留さんを棄るかというのである。しかし実物を見なければ満足な賭けはできない、
「じゃあその女を拝見しよう」