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とめさんとそのおんな

留さんとその女

山本 周五郎

「アサヒグラフ」 1935(昭和10)年9月4日号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,799 字 · 14 页

青空文庫

みんなは相談した。ところが留さんはうんと云わなかった、家へ来てくれるのも御免であるし、外へ伴れて出るのもお断りである、自分たちをそっとしておいてもらいたいのだ。仲間はあざ笑い、罵り、くさしつけた。飴ん坊のでれ助だと云った。よろしいそのとおり、悪口なら気のすむだけ云うがよい、そんなことには生れて以来ずっと馴れている。

「へっへへへ」

留さんは笑っていた。

ひと月ばかり経った。

同じ会社の二十七号船にぎ州と呼ぶ水夫がいた。まだ十八にしかならぬのに、彼は通船会社きっての女たらしの名をとっている、細面の浅黒いきりりとした顔だちで、声の少し嗄れているのが――沿岸の子守娘たちは――とくにたまらなく浮気心を唆られた。なにしろ二十七号のエキゾスの音が響いてくると、航路の沿岸へぱらぱら女たちがとび出してくるそうである、彼の持物の多くが――麦藁帽子だの草履だの手帳だのあるいはパンツだの手帛だのが――みんな彼女たちの心をこめた贈り物だということは、誰にも否定することのできぬ事実であった。

ある夜――、高浦食堂で四五人の船員たちが酒を呑んでいた。そして話が留さんのことにふれたとき、ぎ州がむっつりした声で――そっぽを向いたまま呟いた。