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きけいのてんにょ
畸形の天女
江戸川 乱歩
「宝石 第八巻第十一号」1953(昭和28)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,893 字 · 35 页
見たくない?」
「見たいね」
「じゃあ、行きましょう。近いのよ」
ふたりは手を引き合って、もうまっ暗になった街を歩いて行った。逢う魔がどきの、夢の国の旅であった。こんどはあの角をまがるな。そうすると、天理教会の提灯が見えるぞ、と思うと、その通りにそれがあった。今とまったく同じことを遠い昔に経験したと感じるあの錯覚だった。きっと空き家だ、古い一軒建ちの空き家だと考えていると、やっぱりその通りであった。廃墟のような空地に、塀も何もない一軒の空き家が、ポツンと建っていた。軒が傾いて、今にもくずれそうな古家だった。
「化け物屋敷みたいだね」
「そうよ。お化けが出るといって、誰も借りる人がないの。でも、あたい、お化けなんか怖くない。おじさんは?」
「おれも怖くないよ」
半びらきの板戸のすきまから、少女に導かれながら、手さぐりで、そこへはいって行った。ひどくカビ臭かった。クモの巣が顔にまといついた。上にあがると、じめじめした古い畳が敷いたままになっていることがわかった。
「電灯がないけど、いいでしょう、暗くても」
少女がかすれた情慾のこもった声でささやいた。
その闇の空き家の中で、松永昌吉は、いまだ嘗つて経験したこともない、甘美な悪夢に酔いしれた。