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きけいのてんにょ
畸形の天女
江戸川 乱歩
「宝石 第八巻第十一号」1953(昭和28)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,893 字 · 35 页
それが少し早く来ただけのことよ」
この少女が神のような洞察力を持っていて、直感で何もかも悟っていたのは、松永にとって、なんという幸運だろう。彼は自分の方がかえって未練らしい気持なのを、恥かしく思った。
「じゃあ、お別かれだよ」
「ウン、いいわ。でも、ちょっと抱いてね」
ふたりは暗闇の中で、抱き合い、唇を合わせた。この甘い乾草の匂いとも永久のお別かれかと思うと、悲しかった。ふみ子は、死にもの狂いに抱きついていた。唇はまるで一つになったように離れなかった。彼の頬に何か流れてきた。彼女の涙だった。それがひっきりなしに溢れて、彼の頬を伝わった。ふたりの合わせた口の中にも流れこんだ。彼女の肩が、彼の腕の中で、ピクンピクンと動き出した。しゃくりあげているのだ。それが声になった。今まで一度も聞いたことのないような狂熱的な恐ろしい泣き声だった。
そして、ふたりは別かれた。表へ出るとふみ子は、暗い街を、あとをも見ずに駈け出して行った。無邪気な小学生のように駈け出して行った。松永は、その場に立ちつくして、そのうしろ姿が見えなくなるまで、じっと見送っていた。
それから、彼は正確に、夕方とは逆のコースをたどって、伊達者の宮城圭助に立ち返ると、上野駅から大型のタクシーを拾って、渋谷の自宅に急いだ。