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ふうてんろうじんにっき
瘋癲老人日記
谷崎 潤一郎
「中央公論」中央公論社、1961(昭和36)年11月~1962(昭和37)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 98,490 字 · 196 页
寒いと神経痛が痛む上に、心臓の発作もおこり易く、病室のスチームは頼りにならないので、電気やプロパンガスのストーブを二つも三つも持ち込んでいる。
二十日 薄曇後晴
昨夜八時頃心窩部より胸骨背面に亙って、苦悶感が三十分位つゞく。ニトログリセリン錠と当直医師の鎮静剤、冠拡張剤の注射で間もなくおさまる。心電図は前回と特に変っていない。血圧一五六―――七八。
二十三日 晴後時々曇
軽い発作が毎日ある。尿に糖が出ているので、今朝は朝食に充分な米飯とおかずを食べて貰い、その後の血糖値を調べて糖尿病の有無を検査する。
二十六日 日曜 晴一時曇
午後六時頃左前胸部に強い苦悶感がおこり、十数分以上つゞいていると、病院から電話で呼ばれる。緊急の処置を当直医に依頼し、午後七時頃馳けつける。血圧一八五―――九七、脈搏九二、整。鎮静剤を注射し間もなく落着く。日曜日は受持医がいないので不安になるためか、発作が多いようである。発作時は血圧が高くなる傾向がある。
二十九日 晴一時あられ濃煙霧後晴
こゝ暫く強い発作は見られない。ベクトル心電図でも前壁中隔梗塞の疑いがある。血清ワ氏反応は陰性。明日よりアメリカから来たばかりの新しい冠拡張剤Rを使うことにする。