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すかいさんきこう
皇海山紀行
木暮 理太郎
「山岳 一六の三」1923(大正12)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,720 字 · 24 页
前に高く屹立した鋸山の最高点へは登らずに済むかと思ったが、どうも登らずには通れぬらしい。この登りは恐ろしく急で手足を働かさなければならなかった。赭色の岩壁が段をなして連っている。拗けくねった木がその間に根を張り枝を拡げて、逆茂木にも似ているが、それがなければ到底も登れぬ場所がある。岩壁や木の根には諸所に氷柱が下っていた。雨の名残りの雫が凍ったものであろう。水がないので困っていた二人は、これで幾分渇をしのぐことを得た。最高点に登りついたのは四時十五分である。字サクナソリと書いた標木が立っている。ここは非常に眺望がよい、谷間はもう薄暗くなったが、連山は模糊として、紫や紫紺の肌に夕ばえの色がはえている。それよりも美しかったのは入日に照らされた雲の色であった。自分らは暗くなるのを気遣いながらも、三十分ばかり遊んでしまった。
鋸山を西に下ってまた上ると、字トンビ岩の杭ある峰の頂に出る。この山から国境山脈はぐっと南に曲るので、西に続く支脈にまぎれ込むことを心配したが、幸に切明けの跡を探り当てて、深い笹の中を迷いもせず下ることが出来た。もう全く暗い、二人で声をかけながら歩いても、ややもすれば互にそれてしまう。