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めらはかせのふしぎなはんざい
目羅博士の不思議な犯罪
江戸川 乱歩
「文藝倶楽部 探偵小説と滑稽小説号」博文館、1931(昭和6)年4月増刊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,493 字 · 31 页
その顔丈けが月光を受けて、クッキリと浮上っていたのです。月の光の中でさえ、黄色く見える、しぼんだ様な、寧ろ畸形な、いやないやな顔でした。そいつが、じっとこちらを見ていたではありませんか。
僕はギョッとして、一瞬間、立ちすくんでしまいました。余り意外だったからです。なぜといって、まだお話しなかったかも知れませんが、その向側のビルディングは、所有者と担保に取った銀行との間に、もつれた裁判事件が起っていて、其当時は、全く空家になっていたからです。人っ子一人住んでいなかったからです。
真夜半の空家に人がいる。しかも、問題の首吊りの窓の真正面の窓から、黄色い、物の怪の様な顔を覗かせている。ただ事ではありません。若しかしたら、僕は幻を見ているのではないかしら。そして、あの黄色い奴の妖術で、今にも首が吊り度くなるのではないかしら。
ゾーッと、背中に水をあびた様な恐怖を感じながらも、僕は向側の黄色い奴から目を離しませんでした。よく見ると、そいつは痩せ細った、小柄の、五十位の爺さんなのです。爺さんは、じっと僕の方を見ていましたが、やがて、さも意味ありげに、ニヤリと大きく笑ったかと思うと、ふっと窓の闇の中へ見えなくなってしまいました。