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もうもくものがたり
盲目物語
谷崎 潤一郎
「中央公論」1931(昭和6)年9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 75,341 字 · 148 页
その飛脚のつきましたのが同じ日の未の刻さがりでござりましたが、そのうちにはや落ち武者がぽつ/\逃げかえってまいりまして、味方はそうはいぼくにおよび、とのさまも御運のすえらしいと申すことでござりました。おしろではあまりのことにおどろきあきれ、よもやとおもっておりますと、日のくれがたに勝家公むざんのありさまにて御帰城あそばされ、しばた弥右衛門のじょうどの、小島わかさのかみどの、中村文荷斎どの、徳菴どのなどをおめしになりまして、玄蕃もりまさがわがいいつけをまもらぬばかりに越度を取ったぞ、それがし一代のこうみょうもむなしくなったが、これも前世のいんがであろうとおっしゃって、いまはおかくごのほどもすゞしく、さすがにとりしずめていらっしゃいました。きけば御子息権六どのはどうなされましたか、らんぐんのちまたのことゝて生死のほどもお分りにならず、とのさまもすでに柳ヶ瀬の陣中においてうちじになされますところを、せめておしろへおかえりになってしずかに御生害あそばしませ、こゝはわたくしがお引きうけいたしますと、毛受勝介どのがたっておすゝめ申しあげましたので、それではと仰っしゃって五幣のお馬じるしを勝介どのにおあずけなされ、府中の利家公のおしろで湯づけをめしあがられまして、それよりいそぎ北の庄へ駈け込まれたのでご