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もうもくものがたり
盲目物語
谷崎 潤一郎
「中央公論」1931(昭和6)年9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 75,341 字 · 148 页
おもえば/\ちょうろけんどのはよくも見込んでくだされしよな、あるにかいなきいのちをながらえていたというのもこういうお役にたてたいからだ、このうえはおくがたをおすくい申す手だてをつくして、かなわぬときはおなじけぶりときえるばかりだと、とっさにしあんをさだめまして、前後のわきまえもなく三味せんを取り上げ、
見せばや
君に
知らせばや
こゝろの中と
袖の色を
とうたいながら、わなゝくゆびさきに糸をおさえて、
けぶりをあいづに
てんしゆのしたえおこしなされませ
と、こちらも合いの手にことよせまして、「いろは」の音をもっておこたえ申したのでござります。もちろんいちざのかた/″\はたゞわたくしのうたといとゝにきゝほれてばかりおいでなされ、ふたりのあいだにこんなことばがかわされたとは知るよしもござりませなんだが、そのときわたくしはおくがたをおすくい申すについて、一つのけいりゃくをおもいついたのでござりました。と申しますのは、こよいとのさま御夫婦は天守の五重へおのぼりなされてこゝろしずかに御自害あそばし、それより用意の枯れ草へ火をつける手はずになっておりました。されば御自害をあそばすまえに、ころあいをうかゞって火をつけまして、そのさわぎにまぎれて朝露軒どのゝ一味をひきいれましたなら、にんずをもっておふたかたのあいだをへだてる