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もうもくものがたり
盲目物語
谷崎 潤一郎
「中央公論」1931(昭和6)年9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 75,341 字 · 148 页
「弥市、どうしたのだえ」
と、そのときかさねてのお言葉に、
「はっ」
と申して、おど/\いたしておりますと、
「いっこう力がはいらぬではないか、もそっときつうもんでおくれ」
と仰っしゃるのでござります。わたくしは、
「おそれいりました」
と申しあげて、さてはいらざる取りこしくろうに手の方がおろそかになったかと、気を入れかえてせっせともんでおりました。なれどもきょうはとくべつにお肩がこっていらしって、おんえりくびのりょうがわに手毬ほどのまるいしこりがおできになっておりまして、もみほごすのがなか/\なのでござります。まあ、ほんとうに、これではさぞかしおつらかろう、こんなにおこりになるというのは、きっといろ/\なものあんじをあそばして、よるもろく/\おやすみにならぬせいではないか、おいたわしいことだわいと、お察し申しあげておりますと、
「弥市」
と仰っしゃって、
「お前、いつまでこのしろのなかにいるつもりなのだえ」
と、仰っしゃるのでした。
「はい、わたくしは、いつまでゞも御奉公をいたしておりとうござります。ふつゝかなものでござりますから、おやくにはたちませぬが、ふびんにおぼし下されまして召しつかっていたゞけましたら有りがたい