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さばくのまちとサフランしゅ
砂漠の町とサフラン酒
小川 未明
「童話」1925(大正14)年6月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 3,790 字 · 8 页
むかし、美しい女が、さらわれて、遠い砂漠のあちらの町へ、つれられていきました。疲れているような、また、眠いように見える砂漠は、かぎりなく、うねうねと灰色の波を描いて、はてしもなくつづいていました。
幾日となく、旅をすると、はじめて、青い山影を望むことができたのであります。
そのふもとに、小さな町がありました。女は、そこへ売られたのです。女自身をのぞいて、だれも、彼女のふるさとを知るものはありません。また、だれも、彼女の行方を悟るものとてなかったのであります。
彼女は、ここで、その一生を送りました。サフラン酒を、この町の工場で造っていました。彼女は、その酒を造るてつだいをさせられていたのでした。
月が窓を明るく照らした晩に、サフランの紅い花びらが、風にそよぐ夕方、また、白いばらの花がかおる宵など、女は、どんなに子供のころ、自分の村で遊んだことや、父母の面影や、自分の家の中のようすなどを思い出して、悲しく、なつかしく思ったでありましょう。
いくら思っても、考えても、かいないものならば、忘れようとつとめました。彼女は、生まれたふるさとのことを、永久に思うまいとしました。