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がらすどのうち

硝子戸の中

夏目 漱石

夏目漱石把自己关在玻璃门后养病,外界只剩单调风景,却总有不速之客闯进来,讲些意想不到的故事。跟着他一起观察这些闲散又生动的瞬间吧。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 52,702 字 · 105 页

青空文庫

三十七

兄は病気のため、生涯妻帯しなかった。

「いいえしまいまで独身で暮らしていました」

「それを聞いてやっと安心しました。妾のようなものは、どうせ旦那がなくっちゃ生きて行かれないから、仕方がありませんけれども、……」

兄の遺骨の埋められた寺の名を教わって帰って行ったこの女は、わざわざ甲州から出て来たのであるが、元柳橋の芸者をしている頃、兄と関係があったのだという話を、私はその時始めて聞いた。

私は時々この女に会って兄の事などを物語って見たい気がしないでもない。しかし会ったら定めし御婆さんになって、昔とはまるで違った顔をしていはしまいかと考える。そうしてその心もその顔同様に皺が寄って、からからに乾いていはしまいかとも考える。もしそうだとすると、彼女が今になって兄の弟の私に会うのは、彼女にとってかえって辛い悲しい事かも知れない。

三十七

私は母の記念のためにここで何か書いておきたいと思うが、あいにく私の知っている母は、私の頭に大した材料を遺して行ってくれなかった。

母の名は千枝といった。私は今でもこの千枝という言葉を懐かしいものの一つに数えている。だから私にはそれがただ私の母だけの名前で、けっしてほかの女の名前であってはならないような気がする。