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つぶてしんじゅう
礫心中
野村 胡堂
「富士」1935(昭和10)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,190 字 · 28 页
「気障だねえ、人の肩に障ったりして」
「何?」
三右衛門の手を払い退けると、其儘スーッと立ち上りました。
「敵討に来たんだよ、退いておくれ、お前さんの禿頭と来た日にゃ、この節出来の、悪い小判の色そっくりだよ」
「や、女奴ッ」
追いすがる三右衛門を突き飛ばして、驚き騒ぐ朋輩芸者の中を、ツ、ツ、ツ、ツと潜ると、正面鳥居甲斐守の前、三尺とも距てぬところへ、片膝を立てて、トンと坐りました。裾を洩るる赤い襦袢、それが、甲斐守の眼に沁みるような絹ではありませんか。
「モシ、御前様え、――いやさ鳥居の鬼奉行様は、お前さんなんだねえ」
「こらッ、何んと言う無礼ッ」
掴みかかる三右衛門を、甲斐守は眼で制しました。
「予が鳥居なら、何んとする」
氷のような冷やかさ。
「鳥居甲斐なら言い分がある――、私の姉さんは、たった一枚しか無い絹物の襦袢を着て居たばかりに、お前さんの為に、日本橋で裸にされ、舌噛み切って死んで了ったよ、よもや知らないとは言うまい」
「…………」
甲斐守もギョッとしました、これが増田屋のお藤の妹とは、夢にも思わなかったのです。
「私も絹の襦袢を着て居るよ、――姉さんのは、それしか無いから、仕方無しに着たんだが、私のは眺えて拵えて飛切りの緋縮緬さ、三両二分とかかったよ、自慢じゃ無いが、私ほどの綺麗な肌を、ゴツゴツの木綿で包まれる