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つぶてしんじゅう
礫心中
野村 胡堂
「富士」1935(昭和10)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,190 字 · 28 页
顔を茂りに隠して、手には大きな虎鋏、その怪鳥の嘴とも見える刃が下を向いて、越前守の頭の上を狙って居るのでした。
お豊の指が動く、――虎鋏は庭師の手を、将に離れんとする一刹那、
「愚か者めッ」
低いが、底力のある一喝が、越前守の唇を漏れました。自然に備わる威力に打たれたのでしょう、太刀と虎鋏は、左り気なく光鋩を納めます。
が、越前守は二人の男女を叱る積りでは無かったのでしょう。愚昧な娘を教える父親のように、悲しくも愛憐の色を湛えた眼に、チラリとお豊を顧み乍ら続けました。
「何時まで世上の人は、太平の夢を見るのじゃ、――踏んだ大地の崩れるのも知らずに、――」
「…………」
「予は、腐り果てた江戸の風俗を此手で解きほぐし、新しい大江戸を建て直そうとしたのじゃ、――日本国中津々浦々まで響けと、この越前は世を警める鐘を撞いたのじゃ、――其方共は自分の身を焼く恐ろしい火の揚るのを知らずに、警めの鐘を呪うのか、鐘撞き男が憎いというのか」
越前守の眼には、涙さえ光って居ります。
「御前様」
お豊は憑物を振り払うように、身を顫わせました。
「この大国難の前に、一人、二人の犠牲のことを考えて居られようか、馬鹿なッ」