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つぶてしんじゅう

礫心中

野村 胡堂

「富士」1935(昭和10)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,190 字 · 28 页

青空文庫

「…………」

「姉さんにあんな虐たらしい死様をさせたのも、要さんの職を取り上げたのも、みんな、天とう様のせいかねえ」

「そりゃ物のたとえだ、こんな時世に生れ合せたのが互の不祥さ」

「それで、お前は胸を擦って居られる積り?」

「…………」

「一体何処の誰がこんな御時世にしたんだろう、何んにも知らない若い娘が、真昼間の往来で裸にされるような、――それがお上のお慈悲だろうか、――御老中とか、お奉行とか言いやがって……」

「お豊」

「いえ、言わして下さい、人に聞かれたって構やしない、親の敵、姉さんの敵、――お前さんにも仕事を取上げた敵――」

「…………」

お豊は要次郎の胸を離れると、月下の町を浜町の方へ去り行く役人の後ろ姿を見送り乍ら、斯う言うのでした。

「私が男なら、乞食になっても附け狙って、姉に恥をかかせたあの鳥居の奴を討ってやる、序に江戸の人達を、こんな目に逢わせる老中――」

「お豊さん、お願だから気を鎮めておくれ」

「要さんはツイ今しがた、死に度い――と言いなすった、私も死に度いと思った、だけど、死んで化けて出る当があるわけじゃなし、そんな張合の無い心中などをするより、どうせ死ぬなら憎い敵に引っ掻きでも宜いから拵えて、万に一つの怨でも晴らしてやり度い」