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しんしゅうこうけつじょう

神州纐纈城

国枝 史郎

在线阅读国枝 史郎《神州纐纈城(しんしゅうこうけつじょう)》,假名注音日语阅读。JLPT N2,点词查义。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 188,242 字 · 380 页

青空文庫

甲府城下は恢復って来た。あちこちから笑い声が聞こえるようになった。少年達の歌う声にも、犬や、鶏の鳴き声にも、争われない歓喜があった。

恐怖時代が過ぎ去ろうとしている。

春が逝って夏が来た。

四散した甲府の人々も、争って故郷へ帰って来た。活溌に人達は働き出した。商業も繁昌しはじめた。信玄の館の城門を開き、武士達も城下を歩くようになった。武家屋敷の窓も開き、夜な夜な灯火が射すようになった。

これまでの苦痛が大きかっただけに、その喜びも著しかった。

それはある日のことである、崇拝者の群から遁がれたと見え、聖者は一人で歩いていた。

韮崎へ通う野道である。

依然として首を垂れている、依然として襤褸を纏っている、片手に持ったは飯桶で、足には草履さえ履いていない。顔を蔽うた梳らない髪、垢にまみれた足や腕、体には何の威厳もない。

野道はウネウネと蜒っていた。飛び飛びに農家が立っていた。それを避けながら歩いて行く。

夕立でも来そうな日射しであった。小鳥が葉蔭で騒ぐのは、その天性の敏感から、雨の降るのを察したからであろう。雨の前令の穏かさ! 草の葉を戦がす風もない。