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しんけいすいじゃくてきやきゅうびがくろん

神経衰弱的野球美学論

坂口 安吾

「文学界 第一巻第四号」1949(昭和24)年6月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 3,681 字 · 8 页

青空文庫

視覚の恢復が充分でないので、タマが良く見えず、ネット裏にいながら、ファウルがひどく気にかゝった。ネット裏だから心配はないようなものだが、視覚が不確実であるから、どうにも怯えて仕方がない。他人のことも気にかゝる。一塁や三塁よりへファウルがとびこんでも、人のことが気にかかって仕方がない。しまいには、見物人の中へライナー性のファウルを叩きこんで、平気でゲームをつゞけている選手や役員どもが癪にさわったりした。尤も、恩人内村大投手も、ここの最高顧問の由である。こういう次第で、はじめの三日間ぐらいは、ゲームをたのしむよりもファウルに怯える方が主であった。

然し、二週間の野球見物を通観して、ゲームをたのしんだかと云うと、実際はたのしくなかった。精神病院の一室にいるよりはマシであったということゝ、後楽園以外に手近かな健全遊楽地帯がなかったというだけのことである。

この二週間の野球見物から得た新知識としては、日本は風が強い、ということが先ず第一であった。砂煙のあがるたびに審判がタイムを宣告する。これが毎々のことである。

僕も往年は陸上競技の選手であり、雀百までのタトエで、国際競技などは欠さず見物に行ったものだが、陸上競技場は石炭ガラがしいてあるから砂煙のたたない仕組みになっている。