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きんだんのししん
禁断の死針
野村 胡堂
「講談倶楽部」1929(昭和4)年9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 3,500 字 · 7 页
「そうかい、いや、世の中は広いようで狭い、うっかりした事は出来ないな」
「ヘッヘヘヘ」
黒沢岩太郎の原口作左衛門は、改めて按麿の顔を見詰めましたが、両眼全く潰れた、見る蔭もない若い按摩で、別に害意があろうとも思われません。うっかり口を滑らして、あわてた自分の態度が疎ましいような気がして、ツイ按摩の顔から眼を外らして、フッと口を緘んでしまいました。
「旦那様エ」
暫らくして按摩は声をかけます。
「何んだ」
「大層お肩が凝って居ります、鍼を一本打って置きましょうか」
「お前は鍼もやるのか」
「ヘッヘヘ、自慢では御座いませんが、鍼は漆検校の門弟で、佐の市とお聴き下されば、御存じの方も御座いましょう」
「漆検校の門弟佐の市、それは大した者だ、噂は聞いて居る、肩の凝の取れるようなのを一本やって貰おうか」
「ヘエ」
懐から取出した畳紙、それを開くと針枕が入って居て、中には、金の毫鍼が十本、短いのは一寸五分ほどのから、長いのは五寸ほどのまで入って居ります。
佐の市は手探り乍ら、馴れた様子で、その十番目の鍼を取り上げました、巻軸になった竜頭は六分、これは定法です、毛の様に伸びた穂は、四寸あまり、それを右手に摘み上げると、穂先を左の指の腹で軽く撫でて見ます。