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しゅうさいようしかがみ

秀才養子鑑

佐々木 邦

「現代」大日本雄辯會講談社、1939(昭和14)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,837 字 · 32 页

青空文庫

「東京は何うだったい?」

「これってこともなかった」

「銀ブラをやって来たかい?」

「うむ。立つ晩に歩いて別れて来た」

「頭を押えるものがなくて、当分楽が出来るだろう」

「馬鹿を言うな」

「子供の出来るのは羨ましいな。僕のところは絶望だ」

と小室君、昨今淋しさを感じている。同僚は皆多産だ。袖の香組の連中は奥さんが妊娠して月が重なると、東京の養家若しくは里へ預けて来る。

「君が悪いんだろう?」

「いや、そんな覚えはないんだ」

「奥さんは丈夫のようじゃないか?」

「あれで、君、ヒステリーがあるんだよ」

「ふうむ」

「この頃は納まっているけれど」

「女は誰でもあるよ」

「君のところもかい?」

「うむ」

「妬くのかい? 矢っ張り」

「変に不安を感じるのらしい」

「だって、君なんか誰も相手にしまい」

「この野郎!」

「ハッハヽヽ」

「これでも学生時代には相思の人があったんだよ」

「へゝえ」

「それを知っているものだから、家内が時々御機嫌を悪くする」

「一寸話せるんだね、君も。それじゃ遠慮をすることもないや」

「それで遠慮をしているのかい?」

「おや/\? やるんだね。ハッハヽヽ」

或晩、橘会の連中十数名が会社の倶楽部に集まって、小室君を中心に座談会を開いた。