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しほんたいへいき

私本太平記

吉川 英治

03 みなかみ帖

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 126,598 字 · 254 页

青空文庫

四人は連れ立って、舟の方へ、歩きだした。

草心尼は女の眼で、卯木のからだに、妊娠のきざしを見ていた。それで、ゆうべからの半夜の冷えも、しきりと彼女のために気遣ったり労っていた様子だったが、今朝もまた、

「なによりは、お体を」

と、寄り添いつつ小声で言った。

「……世に立つ男もですが、女の産むという使命もそら恐ろしいほどたいへんなつとめです。これから先も流浪の御境遇とやら。よほどお大事になされませぬと」

「ありがとうぞんじまする。もう、どんな中でも」

「お難儀は察しますが、でも、子のすこやかを見る日となれば、これまた、子ほど生きがいを教えてくれるものもありませぬなあ。……この尼にしても、もし、覚一がいなかったら、どんな淋しい身やらと思われまする。盲の子を持ってすら、そうなのですから」

女同士の道づれ話を、聞くともなく聞いていた元成は、ふと足を佇ませて、

「尼前、……よいことを伺った。じつは、住吉の家もつかのま、またも流浪をつづけるしかなく、しょせん、多年の志なども、夢にすぎぬと、暗澹な思いでいましたが、盲の覚一どのですら、燃ゆるような一念をお持ちだし、あなたもそれを生きがいに世を愉しんでいらっしゃる。