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しほんたいへいき
私本太平記
吉川 英治
03 みなかみ帖
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 126,598 字 · 254 页
当時、大塔ノ宮のおられた叡山は宮方なので、そんな趣向に書いたのだろうが、夢ばなしでは、とるに足らない。
しいて、幕府心証の変化をほかに探すなら、それは大地震後の人心の動揺や、高時の迷信も加えた不安がさせたものだろう。――しかし、つづいての日野俊基の処分には、何の手かげんも、見られなかった。
俊基の身は、さきに本庄鬼六の手で六波羅から護送され、この鎌倉表では、諏訪三郎盛高の門へ、きびしく預けられていた。
彼のその牢愁も、いつか七十余日である。
土用過ぎだが、鎌倉特有な暑さだった。座敷牢の内は、昼も蚊うなりが耳につく。いっそ岩穴牢の方がましかもしれない。
「番士。……蚊遣が絶えた。また榧の木屑でも焚いてくれんか。生きているとは厄介なもの。この蚊攻めにもホトホトまいる」
むうっとするような暗室のうちで、彼は机にむかっていた。書見、筆墨などは、ゆるされているらしい。
錠ノ口から、警固の一人が、顔を見せた。
「いや弁ノ殿。今日はもうじきお部屋替えのはずです。少々ご辛抱あるがよい」
「ほう。……またいつもの部屋掃除でもしてくれるのかな。昼は蚊、夜は蚤。稀れには、外の風も欲しいところだ。