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しほんたいへいき

私本太平記

吉川 英治

03 みなかみ帖

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 126,598 字 · 254 页

青空文庫

「ちと、つつしめ」

とある禁足の命も、耳になど入れない。ものの三日と卯木の顔を見ずにいられなかった。

わけて風雨の晩などは、むしろ、与えられた僥倖の夜として、主邸から忍び出し、西華門院の高築土をこえ、夜空の吠えもよそに、卯木と明け方ぢかくまで睦んでもどった。われながら、その勇には、驚かれもする。

いや、彼の情熱とその大胆さに、ひそかな微笑を覚えたのは、じつは主人の成輔であったらしい。恋の同情者としてでなく、元成を、自分の眼がねどおり、勇ある者と見て、「――この男、用うべし」と、思ったのである。

かねがね、烏丸成輔、千種忠顕、坊門ノ清忠など、急進的な公卿のあいだで、

「用うるによき男はないか」

と、心がけていた宿題があったのだ。

それは、みかど(後醍醐帝)も、おふくみではあり、仕損じたら、一味の公卿同盟には大ヒビが入るし、対鎌倉の面でも、危険な機ッかけを呼ぶものとなりかねないので、秘命をさずける人選には、大事に大事をとっていたことだった。

ついに、或る折。

成輔は自室を閉じて、密々、それを自分の見こんだ治郎左衛門元成に打ち明けたすえ、

「どうじゃ、やるか」