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あきのはんしゃ

秋の反射

宮本 百合子

「ウーマンカレント」1926(大正15)年6月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,234 字 · 9 页

青空文庫

「せきが出るな――せきの時は食べにくいもんだが、これなら他のものと違ってもつから、ほまちに食いなされ」

麦粉菓子を呉れる者があった。

「寒さに向って、体気をつけなんしょよ」

と或る者は真綿をくれた。元村長をした人の後家のところでは一晩泊って、綿入れの着物と毛糸で編んだ頭巾とを貰った。古びた信玄袋を振って、出かけてゆく姿を、仙二は嫌悪と哀みと半ばした気持で見た。

「ほ、婆さま真剣だ。何か呉れそうなところは一軒あまさずっていう形恰だ」

明後日村を出かけるという日の夕方近く、沢や婆は、畦道づたいに植村婆さまを訪ねた。竹藪を切り拓いた畑に、小さい秋茄子を見ながら、婆さんは例によってめの粗い縫物をしていた。沢や婆の丸い背を見つけると、彼女は、

「おう、婆やでないかい」

と云いながら、眼鏡をはずした。眼鏡は、鼻に当るところに真綿が巻きつけてある。五つ年下の植村婆さんは、耳の遠い沢やに、大きな声で悠くり訊いた。

「いよいよ行ぐかね?」

沢や婆は、さも草臥れたように其に答えず、

「やっとせ」

と上り框に腰を下した。そして、がさがさの手の平で顔じゅう撫でた。植村婆さんは、一寸皮肉に笑いながら云った。