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いのうはりまのかみ
稲生播磨守
林 不忘
「講談倶楽部」講談社、1935(昭和10)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,172 字 · 29 页
奎堂 (観念して)では、その前にちょっと諸士に伺いますが、このお刀は、どなたの――?
一同顔を見合わす時、人々のうしろからぱっと税所郁之進が飛び出して、呼吸を弾ませて奎堂の前に手を突く。
郁之進 (臆病に)わ、わたくしの帯刀でござります。
奎堂 たしかめますが、この多門三郎景光でござるぞ。しかとお手前の刀に相違ありませぬな。
播磨 郁之進の刀か。それがどうした。
奎堂 はっ、おそれながら、これはもっての他の凶相。手前、もはや三十年の余も刀相を観ておりますが、かような悪相は初めてでござりまする。
播磨 ほほう、どう悪い?
奎堂 必ずお気に留められませぬよう――主君に崇りをなす相が、ありありと浮かんでおりまする。(座中愕然とざわめき立つ)
播磨 なに、余に仇を? 郁之進か――うふ、うふふ、思いあたることが無いでもない。
お加世は殿のかげに、いっそう身を縮める。
郁之進 (懸命に殿の前へいざり寄って、平伏する)と、とんでもない! この男は山師でござります。詐欺師でござります。(奎堂へ涙声で)これ! 刀相などと、好い加減なことを並べて、私の刀が殿に崇りをなすとは、む、無責任――め、迷惑にもほどがある! と、取消して下さい! 取消せ!