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りゅうたんだん

竜潭譚

泉 鏡花

「文芸倶楽部」1896(明治29)年11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,899 字 · 30 页

青空文庫

血色わるくなりて痩せもしつとて、姉上のきづかいたまい、後見の叔父夫婦にはいとせめて秘しつつ、そとゆうぐれを忍びて、おもての景色見せたまいしに、門辺にありたる多くの児ども我が姿を見ると、一斉に、アレさらわれものの、気狂の、狐つきを見よやといういう、砂利、小砂利をつかみて投げつくるは不断親しかりし朋達なり。

姉上は袖もてわれを庇いながら顔を赤うして遁げ入りたまいつ。人目なき処にわれを引据えつと見るまに取って伏せて、打ちたまいぬ。

悲しくなりて泣出せしに、あわただしく背をばさすりて、

「堪忍しておくれよ、よ、こんなかわいそうなものを。」

といいかけて、

「私あもう気でも違いたいよ。」としみじみと掻口説きたまいたり。いつのわれにはかわらじを、何とてさはあやまるや、世にただ一人なつかしき姉上までわが顔を見るごとに、気を確に、心を鎮めよ、と涙ながらいわるるにぞ、さてはいかにしてか、心の狂いしにはあらずやとわれとわが身を危ぶむようそのたびになりまさりて、果はまことにものくるわしくもなりもてゆくなる。

たとえば怪しき糸の十重二十重にわが身をまとう心地しつ。しだいしだいに暗きなかに奥深くおちいりてゆく思あり。