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りゅうたんだん
竜潭譚
泉 鏡花
「文芸倶楽部」1896(明治29)年11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,899 字 · 30 页
滝やこの堂にかかるかと、折しも雨の降りしきりつ。渦いて寄する風の音、遠き方より呻り来て、どっと満山に打あたる。
本堂青光して、はたたがみ堂の空をまろびゆくに、たまぎりつつ、今は姉上を頼までやは、あなやと膝にはいあがりて、ひしとその胸を抱きたれば、かかるものをふりすてむとはしたまわで、あたたかき腕はわが背にて組合わされたり。さるにや気も心もよわよわとなりもてゆく、ものを見る明かに、耳の鳴るがやみて、恐しき吹降りのなかに陀羅尼を呪する聖の声々さわやかに聞きとられつ。あわれに心細くもの凄きに、身の置処あらずなりぬ。からだひとつ消えよかしと両手を肩に縋りながら顔もてその胸を押しわけたれば、襟をば掻きひらきたまいつつ、乳の下にわがつむり押入れて、両袖を打かさねて深くわが背を蔽いたまえり。御仏のそのおさなごを抱きたまえるもかくこそと嬉しきに、おちいて、心地すがすがしく胸のうち安く平らになりぬ。やがてぞ呪もはてたる。雷の音も遠ざかる。わが背をしかと抱きたまえる姉上の腕もゆるみたれば、ソとその懐より顔をいだしてこわごわその顔をば見上げつ。うつくしさはそれにもかわらでなむ、いたくもやつれたまえりけり。