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りゅうたんだん
竜潭譚
泉 鏡花
「文芸倶楽部」1896(明治29)年11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,899 字 · 30 页
雨風のなおはげしく外をうかがうことだにならざる、静まるを待てば夜もすがら暴通しつ。家に帰るべくもあらねば姉上は通夜したまいぬ。その一夜の風雨にて、くるま山の山中、俗に九ツ谺といいたる谷、あけがたに杣のみいだしたるが、たちまち淵になりぬという。
里の者、町の人皆挙りて見にゆく。日を経てわれも姉上とともに来り見き。その日一天うららかに空の色も水の色も青く澄みて、軟風おもむろに小波わたる淵の上には、塵一葉の浮べるあらで、白き鳥の翼広きがゆたかに藍碧なる水面を横ぎりて舞えり。
すさまじき暴風雨なりしかな。この谷もと薬研のごとき形したりきとぞ。
幾株となき松柏の根こそぎになりて谷間に吹倒されしに山腹の土落ちたまりて、底をながるる谷川をせきとめたる、おのずからなる堤防をなして、凄まじき水をば湛えつ。一たびこのところ決潰せむか、城の端の町は水底の都となるべしと、人々の恐れまどいて、怠らず土を装り石を伏せて堅き堤防を築きしが、あたかも今の関屋少将の夫人姉上十七の時なれば、年つもりて、嫩なりし常磐木もハヤ丈のびつ。草生い、苔むして、いにしえよりかかりけむと思い紛うばかりなり。