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どうてい

童貞

豊島 与志雄

「中央公論」1925(大正14)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,314 字 · 13 页

青空文庫

なぜ皆黙ってるんだ。

「ダンスでも習いたいな……。」

トトントントン、トトントントン……。

「まあー、どうしたんですよ、口の中でぶつぶつ云って、そして……。」

トトントントン……。顔が一寸挙げられなかった。

「僕は……ダンスを習いたいんだけれど……。」

擦り寄ってきて、肩のあたりと腿のあたりとの厚ぼったい重みで、焦れったそうにトントンとやった、彼女の肉のはずみが、今ふいに蘇ってきて、とても抵抗出来なかった。指先から次には身体中で、トトントントン、トトントントン……。胸の底がほてってきて、息苦しかった。

「おかしな人ですね。どうかしたんですか。」

今迄見たこともないような、赤の他人の眼付で母が覗きこんでくる…とはっきり意識したが、それが見返せなかった。

「少し酒を飲ませられちゃって……。」

「お酒を。」

「そして急いで帰ってきたもんだから、汗をかいちゃって……。」

出まかせに云い出したのが実は本当で、身体中がねとねとして気味悪かった。

「それでは……あの、お湯にでもはいったら……。」

「お湯がわいてるんですか。……すぐにはいろう。」

「今加減を見せますよ。」

母が女中を呼ぶのを待たないで、もう帯を解きかけながら、湯殿の方へ馳け出していった。