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どうてい

童貞

豊島 与志雄

「中央公論」1925(大正14)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,314 字 · 13 页

青空文庫

首筋まで全身をぐったりと湯に任せ、後頭部を浴槽の縁にもたせかけて、もーっとした湯気の中から、ぼんやりした電燈の目玉を眺めていた。

何にも考えることが出来なかった。身体の節々に力がなかった。はずみをつけて動いていた気分が静まり淀んで、それから、疲れきったのろい渦を巻き初めた。それに引き込まれて気を失いそうだった。

きりきりと金物の軋るような音が……ごーっと暴風の吹き過ぎるような音が……どこか遠くでしていた。

「……お加減は……。」

はっと我に返って立上った。湯をじゃぶじゃぶやった。――誰が加減なんか悪いものか。

「あの……お加減は如何でございますか。」

戸の外からお千代の声がはっきりしてきた。湯の加減だったのか。……丁度ぬる加減でよかったが、然し、頭がふらふらしていた。

「丁度いいよ。」

元気よく答えてやったけれど、それだけで、身を動すのも大儀だった。

「床をとっといて下さい、すぐに寝るんだから。」

誰にともなく大きな声で云っておいて、湯殿から飛び出しかけた。が、……茶の間をぬけて寝室の方へ行くのには、母の前を通らなければならなかった。着物を抱えて真裸のままで母の前を……。