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どうてい

童貞

豊島 与志雄

「中央公論」1925(大正14)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,314 字 · 13 页

青空文庫

そんなこといつだって平気だったんだが……。

ふと、咽せ返るような追想に、足が竦んでしまった。

意気地なしめ、なあに……。

擽ったいような気持で、歯をぎりっと一つやって、猛然と突き進んでいった。

「もう寝むんですか。」

「ええ、頭痛がするんです。」

云いすてて、柱時計の方を見上げながらのっそりと、それでも九時半頃だと見て取っただけで、裸のまま母の前を通りすぎてやった。が次には小走りになった。

大急ぎに寝間着をひっかけて、頭まで布団の中にもぐり込んだ。

とっぷりと水底に沈んだような、落付くところへ落付いた感じだった。そしてそれがなぜか、全身無気力に投げ出されたまま竦んでしまって、身動きが出来なかった。

一度……或は二度……母が様子を見に来たようだった。が黙っていた……というより、本当にはっきりとは意識しなかった。

二重眼瞼の眼がちらちらと動いていた。それが時々じっと真正面から覗きこんできた。

胸の奥がきりきり痛んでいた。

「あたし、あなたが好きになった。……ね……ねえ……。」

感情に抵抗してみるつもりだったのが、その「つもり」のために、却って自分の方から落ち込んでいった。