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わらわれそうなはなし
笑われそうな話
山本 周五郎
「あまカラ」甘辛社、1961(昭和36)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 3,110 字 · 7 页
「もうメドックなんかいらない」と私は言った。どういうものか、そのころからフランス物もドイツ物もいちように酸っぱくなったのである。なんどもためしてみたが慥かに酸味が強くなり、舌に残るあの渋さが感じられなくなった。
私は知友にヘルメス・デリカをすすめた。朝日学芸部の門馬義久がまず改宗したし、私といっしょに飲む席では多くの青年や女性たちもよろこんでそれを飲んだ。尤もそこには裏があったので、いつかそういう席へ一人でいったとき、そういう家の若い女性の一人が、私の単純さを気の毒そうに笑った。
「あなたの前だから飲むのよ」と彼女は私に告げた。「あなたのいらっしゃらないときはみなさんハイボールかビールだわ、ほんとよ」
門馬義久だけは自宅でもブドー酒をたしなんでいるのである。牛鍋とか刺身、酢の物などには酒が欲しいが、私は洋風の食事が多いので、自然ブドー酒ということになるのだろう。牛鍋をするときにもビールと赤ブドー酒を使う。するといつまでも煮詰らず、味も中和されてうまいと思うのだが、――これにも程度がある、ということをつい先日おもい知らされた。というのが、某席で前夜から数人の青年たちと飲み続けており、卓子の上では牛鍋が煮えていた。