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わらわれそうなはなし
笑われそうな話
山本 周五郎
「あまカラ」甘辛社、1961(昭和36)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 3,110 字 · 7 页
私は肉を三四片食べるとあとは欲しくないので、飲みながら時をおいて、鍋の中へビールを注ぎ入れていた。
「これはマエストロ・ヤマダコーサクの秘伝である」などと言いながら、相当なごきげんだったというより、もうすっかり飽きて欠伸を噛みころす代りにくちばしったものだと思う。そこへ写真家の秋山青磁があらわれた。その日はそれからS誌のグラビアを撮ることになっていて、そのため秋青が来たのであるが、「まず一杯」というので彼にブドー酒をすすめ、ところが飲めない(おお可哀そうに)彼はさっそく牛鍋にアタックをかけた。
「すげえ」彼はとたんに箸を控えて言った。「これあいったいなんだ」
「スキヤキよ」と女性の一人が言った。「なんだと思ったの」
「これがスキヤキか」と秋青は顔をしかめながら言った。「スキヤキとしたらこの苦えのはなんだい、苦えだけじゃあねえか、おう苦え、こんなスキヤキを食べたのは初めてだ」
あとで聞いたのだが、私が牛鍋をしたあとで、いつも言うせりふがある。それは「鍋底のいちばんうまいところでじつに心残りではあるが、どうか台所の人たちに食べてもらって下さい」というのである。