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はこねのやま

箱根の山

田中 英光

「文藝春秋 別冊2」1946(昭和21)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,963 字 · 33 页

青空文庫

元気もなく、ただ俯向いてのろのろ小さな足を動かしているだけなのを見れば、私はなんとかして元気をつけてやりたく、畑宿を出て暫く行ったところで、路傍に五、六本の太い丸太が積み重ねてあったから、急に前の竹杖の時の会話を思い出し、執念深い性質も丸出しにして、「こら一郎ッ、お前さっき竹の杖は軽すぎてダメだと言ったろう。じゃったらこの丸太を杖にしてみい。ほら、持ってみろ」と強い真面目な表情を装って言ったが、言う傍から笑ってしまうので、一郎はバカにして、「お父さんが持ってくれたら持つよ」と些か狡い表情だった。

こいつめと思ったが、腹は減っているし、その丸太は私にも持てそうにもないほど太いものだったから、少し腹を立て、「お父さんには持てん。だけれどお前は竹杖では軽すぎると言うほどの豪傑だから持てるだろ」、「ウウン、お父さんに持てんものなら、ボクにも持てん」一郎はあっさりそう言うと四股を踏むようにして山路を登って行く。これだけの会話で大分元気を取り戻したようではあったが、もはや、その様子をハラハラして見守りながら私は後からついて行った。また杉林の路ばかりがどこまでも続き、勾配も段々きつくなるので、下駄穿きの私も正直なところ、大分へばって来ていた。