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はだいろのつき

肌色の月

久生 十蘭

「婦人公論」中央公論社、1957(昭和32)年4~8月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 50,706 字 · 101 页

青空文庫

膝の上に書類をひろげて、

「いま、これを読むから、相違した点がなかったら、署名して拇印をおしてくれたまえ」

「それは供述書というやつなの」

「そんなむずかしいもんじゃない……捜査調書の抜萃……宇野久美子に関係のある部分だ。われわれの仕事は、確認という形式を踏まなければ体をなさないのだから、どうしようもないのだ。概略だよ、いいね……東洋放送の宇野久美子、すなわち君は五月二十日、郷里の和歌山市に帰る目的で、二十一時五十分、東京駅発、大阪行の一二九号列車に乗ったが、途中で気が変って……ここは君が供述したとおりになっている……翌、二十一日、三時五十四分に豊橋に下車。七時〇分の東京行に乗った。十一時三十分、熱海駅着、十一時四十分の伊東行に乗車、十二時十二分、伊東駅着……店名失念の駅前食堂で中食、遊覧の目的で徒歩で湖水に向った……二時すぎ、湖水の分れ道、その附近で雨に逢った……雨の中を歩いていると、東洋相互銀行……通称、東洋銀行の取締役頭取……大池忠平の運転するプリムスが通りかかり、宇野久美子にたいして乗車をすすめた……宇野久美子はプリムスに乗ってそのまま大池所有のロッジに至った。