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えんしょ

艶書

山本 周五郎

「小説倶楽部」桃園書房、1954(昭和29)年5月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 25,027 字 · 50 页

青空文庫

半兵衛は女中や下男たちをつれて戻って来た。女中や下男たちは応急手当用の品(卵白とか焼酎とか膏薬とか晒し木綿など)を持って来た。「助かりそうなやつから先にやろう」半兵衛はこう云って燭台の火を増させ、自分で順に負傷者をみまわったうえ、それぞれ手当の指図をしながら、ふと気づいたように、

「出さんはもう帰ってくれ」と云った。

「帰るんですって」

「大目付と町奉行が来る、あとのことがあるからここでかかりあいになってはまずいんだ」

あとのことというのは「郡奉行になる」ことであろう。郡奉行になるとき、この件でかかりあいになっていてはまずい、というのに違いない。だが、刺客のうち生き残る者や、女中たちが知っている、いま帰ったところですぐわかるではないかと思った。

「そういうことはおれが引き受けるよ」半兵衛は笑いながら云った、「酒が途中だけれど初めからそのつもりだったんでしようがない、また飲み直すとしてともかく帰ってくれ」

「初めからそのつもりですって」

「出さんには悪いがね」半兵衛は出三郎の肩を押した、「さあ玄関まで送ってゆこう」

出三郎は笠井忠也のほうを見た。

――このままいってしまっていいだろうか。