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はなふぶき
花ふぶき
豊島 与志雄
「風雪」1948(昭和23)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,409 字 · 20 页
おれのことばかりではない、彼女自身のことも、彼女は無視してるようだ。――嘉代さんの時折の言葉を綜合してみると、千代の正体が次第にはっきりしてくる。
いつも千代は、嘉代さんと一緒にお風呂に行く。そんな時、嘉代さんは千代をなるべく早く歩かせる。そろりそろりと、下駄をひきずって、重病人のように歩く、その歩調に嘉代さんが従わないで、自分の歩調に千代を従わせようとするのだ。普通の人のように歩く癖をつけてやろうと、訓練するためなのであろうか。
或る時、千代は嘉代さんに後れないよう、相並んで、街路を横ぎりかけた。とたんに、一台のトラックが疾駆してきた。嘉代さんは立ち止ったが、千代は二三歩先に出た。手をつないで歩いてたわけではないのだ。嘉代さんは息をつめて、千代の袖を捉えた。瞬間、トラックは鼻先をかすめて過ぎた。同時に、千代は捉えられてる片袖を振り払い、両袖を顔に押し当てて棒立ちになった。暫く動かなかった。
「まっ黒なつむじ風が通りすぎた。」と漸くに千代は言った。
「つむじ風じゃないよ。トラックよ。」
「いいえ、まっ黒なつむじ風だった。」
そして風呂屋に着くまで、トラックとまっ黒なつむじ風とが繰返されたのである。