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はなふぶき

花ふぶき

豊島 与志雄

「風雪」1948(昭和23)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,409 字 · 20 页

青空文庫

」と千代は答える。

千代は実際、そんなことには関心がないらしい。彼女の相手は、火鉢の炭火や、畑の野菜や、焼け跡の草原や、忍び込んでくる野良猫ばかりのようだ。然し、隅っこで下洗いをしているおれには、酔客の冗談がおれを種にしてることがよく分る。ふだんは苦笑するだけだが、虫の居所が悪いと、おれはむかついてくる。その男の頭に、また千代の顔に、皿や小鉢を打っつけてやりたくなることもある。

千代がいなかったら、どんなにここは明るくなることだろう。そういう思いがおれの胸の中に巣くっていた。そのことが、やがて、世の中にも通ずる。千代がいなかったら、どんなに世の中は明るくなることだろう。――それを、おれは肯定する。陰惨な戦争は済んだ。おれ達の世界は立て直しだ。平和国家だの、民主主義だの、無血革命だの、そんなことはおれには縁遠いものに思われた。それよりも、おれの生活、つまりおれの世界を、自由な境地に繰り拡げることだ。それには、そういう自由には正義とか不正義とかいうことよりも、美とか醜とかいうことが問題だ。美は心を自由に開いてくれる。醜は心を不自由に閉す。醜悪はおれの世界から絶滅しなければならない。