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はなこ
花子
「三田文学」1910(明治43)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,950 字 · 11 页
この時その皺が出来た。視線は学生から花子に移って、そこにしばらく留まっている。
学生は挨拶をして、ロダンの出した、腱の一本一本浮いている右の手を握った。La Danaide や Le Baiser や Le Penseur を作った手を握った。そして名刺入から、医学士久保田某と書いた名刺を出してわたした。
ロダンは名刺を一寸見て云った。「ランスチチュウ・パストョオルで為事をしているのですか。」
「そうです。」
「もう長くいますか。」
「三箇月になります。」
「Avez-vous bien travaill ?」
学生ははっと思った。ロダンという人が口癖のように云う詞だと、兼て噂に聞いていた、その簡単な詞が今自分に対して発せられたのである。
「Oui, beaucoup, Monsieur !」と答えると同時に、久保田はこれから生涯勉強しようと、神明に誓ったような心持がしたのである。
久保田は花子を紹介した。ロダンは花子の小さい、締まった体を、無恰好に結った高島田の巓から、白足袋に千代田草履を穿いた足の尖まで、一目に領略するような見方をして、小さい巌畳な手を握った。