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はなこ
花子
「三田文学」1910(明治43)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,950 字 · 11 页
久保田の心は一種の羞恥を覚えることを禁じ得なかった。日本の女としてロダンに紹介するには、も少し立派な女が欲しかったと思ったのである。
そう思ったのも無理は無い。花子は別品ではないのである。日本の女優だと云って、或時忽然ヨオロッパの都会に現れた。そんな女優が日本にいたかどうだか、日本人には知ったものはない。久保田も勿論知らないのである。しかもそれが別品でない。お三どんのようだと云っては、可哀そうであろう。格別荒い為事をしたことはないと見えて、手足なんぞは荒れていない。しかし十七の娘盛なのに、小間使としても少し受け取りにくい姿である。一言で評すれば、子守あがり位にしか、値踏が出来兼ねるのである。
意外にもロダンの顔には満足の色が見えている。健康で余り安逸を貪ったことの無い花子の、いささかの脂肪をも貯えていない、薄い皮膚の底に、適度の労働によって好く発育した、緊張力のある筋肉が、額と腮の詰まった、短い顔、あらわに見えている頸、手袋をしない手と腕に躍動しているのが、ロダンには気に入ったのである。
ロダンの差し伸べた手を、もう大分ヨオロッパ慣れている花子は、愛相の好い微笑を顔に見せて握った。