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はなこ

花子

森 鴎外

「三田文学」1910(明治43)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,950 字 · 11 页

青空文庫

ロダンは二人に椅子を侑めた。そして興行師に、「少し応接所で待っていて下さい」と云った。

興行師の出て行った跡で、二人は腰を掛けた。

ロダンは久保田の前に烟草の箱を開けて出しながら、花子に、「マドモアセユの故郷には山がありますか、海がありますか」と云った。

花子はこんな世渡をする女の常として、いつも人に問われるときに話す、きまった、strotype な身の上話がある。丁度あの Zola の Lourdes で、汽車の中に乗り込んでいて、足の創の直った霊験を話す小娘の話のようなものである。度々同じ事を話すので、次第に修行が詰んで、routine のある小説家の書く文章のようになっている。ロダンの不用意な問は幸にもこの腹藁を破ってしまった。

「山は遠うございます。海はじきそばにございます。」

答はロダンの気に入った。

「度々舟に乗りましたか。」

「乗りました。」

「自分で漕ぎましたか。」

「まだ小さかったから、自分で漕いだことはございません。父が漕ぎました。」

ロダンの空想には画が浮かんだ。そしてしばらく黙っていた。ロダンは黙る人である。

ロダンは何の過渡もなしに、久保田にこう云った。