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はなよい

花宵

山本 周五郎

「少女の友」1942(昭和17)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,938 字 · 18 页

青空文庫

いつも云うとおり、おまえは兄さまの字をよく拝見して、もっともっと勉強しなければいけないと思います」

「…………」

「英三郎、おわかりですか」

母のこえはきつかった。今日こそ褒めて貰えると信じていた英三郎は、思いのほかの言葉に胸がいっぱいになり、ちょっと返辞もできなかったが、母のきつい声を聞いてようやくそこへ手をつきながら「はい」と答えた。そして兄のあとから廊下へ出るとすばやく指で眼をぬぐった。清之助はいばって肩を張り、自分たちの部屋へはいるとき、

「えへん、ぷい」

と云った。英三郎は黙って自分の机の前へいって坐った。

「英三郎、山へ行かないのか」

「行きません」

「どうしてさ、行くと約束したじゃないか」

英三郎はきよがきを二つに折って抽出へしまい、本箱の中から手に当った書物をとりだして机の上にひろげた。清之助はずかずかとそばへ寄って来て弟の肩を押した。

「武士の子が約束をやぶるという法はないぞ、さあいっしょに行こう」

「いやです」

「なぜいやなんだ」

「勉強するんです」

英三郎はひろげた書物の上へかぶさるようにしながら云った。

「母上が勉強しろとおっしゃったんですから、だからわたくしは勉強するんです」