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なおこ
菜穂子
堀 辰雄
楡の家 第一部「物語の女」山本書店、1934(昭和9)年11月<br> 楡の家 第二部「文学界」1941(昭和16)年9月号<br> 菜穂子「中央公論」1941(昭和16)年3月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 88,758 字 · 173 页
彼女は彼に向ってつい口から出るが儘に云った。「明さんは羨ましいほど、昔と変らないようね。……でも、女はつまらない、結婚するとすぐ変ってしまうから。……」
「あなたでもお変りになりましたか?」明は何んだか意外なように、急に立ち止って、そう問い返した。
菜穂子はそう率直に反問されると、急に半ばごまかすような、半ば自嘲するような笑いを浮べた。「明さんにはどう見えて?」
「さあ……」明は本当に困惑したような目つきで彼女を見返しながら口籠っていた。「……なんて云っていいんだか難しいなあ。」
そう口では云いながら、彼は胸のうちで此の人は矢っ張誰にも理解して貰えずにきっと不為合せなのかも知れないと思った。彼は何も結婚後の菜穂子の事をたずねる気もしなかったし、又、そんな事はとても自分などには打明けてくれないだろうと思ったけれど、菜穂子の事なら今の自分にはどんな事でも分かってやれるような気がした。昔は彼女のする事が何もかも分からないように思われた一時期もないではなかったが、今ならば菜穂子がどんな心の中の辿りにくい道程を彼に聞かせても、何処までも自分だけはそれについて行けそうな気がした。