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なおこ

菜穂子

堀 辰雄

楡の家 第一部「物語の女」山本書店、1934(昭和9)年11月<br> 楡の家 第二部「文学界」1941(昭和16)年9月号<br> 菜穂子「中央公論」1941(昭和16)年3月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 88,758 字 · 173 页

青空文庫

それをこうやって再び自分の気持に鞭うつようにしながら書き続けようとする理由は、これを読んでゆくうちにお前には分かっていただけるのではないかと思う。

森さんが突然北京でお逝くなりになったのを私が新聞で知ったのは、去年の七月の朝から息苦しいほど暑かった日であった。その夏になる前に征雄は台湾の大学に赴任したばかりの上、丁度お前もその数日前から一人でO村の山の家に出掛けて居り、雑司ヶ谷のだだっ広い家には私ひとりきり取り残されていたのだった。その新聞の記事で見ると、この一箇年殆ど支那でばかりお暮らしになって、作品もあまり発表せられなくなっていられた森さんは、古い北京の或物静かなホテルで、宿痾のために数週間病床に就かれたまま、何者かの来るのを死の直前まで待たれるようにしながら、空しく最後の息を引きとって行かれたとの事だった。

一年前、何者かから逃れるように日本を去られて、支那へ赴かれてからも、二三度森さんは私のところにもお便りを下すった。支那の外のところはあまりお好きでないらしかったが、都市全体が「古い森林のような」感じのする北京だけはよほどお気に入られたと見え、自分はこういうところで孤独な晩年を過ごしながら誰にも知られずに死んでゆきたいなどと御常談のようにお書きになって寄こされたこともあったが、まさか今が今こんな