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なおこ

菜穂子

堀 辰雄

楡の家 第一部「物語の女」山本書店、1934(昭和9)年11月<br> 楡の家 第二部「文学界」1941(昭和16)年9月号<br> 菜穂子「中央公論」1941(昭和16)年3月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 88,758 字 · 173 页

青空文庫

ときおり焔の工合でその光の揺らぐのが、お前が無表情な顔をしていればいるほど、お前の心の動揺を一層示すような気がされてならなかった。

だが、山家らしい質素な食事に二人で相変らず口数寡く向った後、私達が再び暖炉の前に帰っていってから大ぶ立ってからだった。ときどき目をつぶったりして、いかにも疲れて睡たげにしていたお前が、突然、なんだか上ずったような声で、しかし爺やたちに聞かれたくないように調子を低くしながら話し出した。それは私もうすうす察していたように、矢っ張お前の縁談についてだった。それまでも二三度そんな話を他から頼まれて持ってきたが、いつも私達が相手にならなかった高輪のお前のおばが、この夏もまた新しい縁談を私のところに持ってきたが、丁度森さんが北京でお亡くなりになったりした時だったので、私も落ち着いてその話を聞いてはいられなかった。しかし二度も三度もうるさく云って来るものだから、しまいには私もつい面倒になって、菜穂子の結婚のことは当人の考えに任せる事にしてありますから、と云って帰した。ところがお前が八月になって私と入れ代りに東京へ帰ったのを知ると、すぐお前のところに直接その縁談を勧めに来たらしかった。