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なおこ
菜穂子
堀 辰雄
楡の家 第一部「物語の女」山本書店、1934(昭和9)年11月<br> 楡の家 第二部「文学界」1941(昭和16)年9月号<br> 菜穂子「中央公論」1941(昭和16)年3月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 88,758 字 · 173 页
……その折、昔の繁昌にひきかえ、今はすっかり寂れ、それがいかにも落着いた、いい感じになっているこの小さな村にしばらく滞在し、そしてこの村からは遠近の山の眺望が実によいことをお知りになると、それから急にお病みつきになられたのだ。そうしてその翌年からは、殆んど毎夏のようにO村にお出かけになっていたようだった。それから二三年するかしないうちに、そこにもぽつぽつ別荘のようなものが建ち出したという話だった。あの山つなみの折、そこに避難された方のうちにでもお父様と同じようにすっかり好きになった者があるのだろうと笑いながら仰しゃっていた。が、あんまり淋しいところだし、不便なことも不便なので、二三年人のはいったきりで、そのまま使われずにいる別荘も少くはないらしかった。――そんな別荘の一つでも買って、気に入るように修繕したら、少し不便なことさえ辛抱すれば、結構私たちにも住めるかも知れない。そう思ったものだから、私は人に頼んで手頃な家を捜して貰うことにした。
私は漸っと、数本の、大きな楡の木のある、杉皮葺きの山小屋を、五六百坪の地所ぐるみ手に入れることが出来た。風雨にさらされて、見かけはかなり傷んでいたけれど、小屋のなかはまだ新しくて、思ったより住み心地がよかった。