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なおこ
菜穂子
堀 辰雄
楡の家 第一部「物語の女」山本書店、1934(昭和9)年11月<br> 楡の家 第二部「文学界」1941(昭和16)年9月号<br> 菜穂子「中央公論」1941(昭和16)年3月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 88,758 字 · 173 页
隣りのK村にはそのころ、お前のお父様の生きていらしった時分の知合がだいぶ避暑に来るようになっていた。その日も、お父様のもとの同僚だった方の、或るティ・パアティに招かれて、私はお前を伴って、そこのホテルに出かけたのだった。まだ定刻に少し間があったので、私たちはヴェランダに出て待っていた。その時私はひょっくりミッション・スクール時代のお友達で、今は知名のピアニストになっていられる安宅さんにお会いした。安宅さんはその時、三十七八の、背の高い、痩せぎすの男の方と立ち話をされていた。それは私も一面識のある森於菟彦さんだった。私よりも五つか六つ年下で、まだ御独身の方だけれど、brilliant という字の化身のようなそのお方と親しくお話をするだけの勇気は私には無かった。安宅さんと何やら気の利いた常談を交わしていらっしゃるらしいのを、私たちだけは無骨者らしい顔をして眺めていた。しかし森さんは私たちのそんな気持がおわかりだったと見え、安宅さんが何か用事があってその場を外されると、私たちの傍に近づかれて二言三言話しかけられたが、それは決して私たちを困らせるようなお話し方ではなかった。