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おちばのとなり

落葉の隣り

山本 周五郎

「小説新潮」1959(昭和34)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 28,877 字 · 57 页

青空文庫

「ねえな」と参吉が答えた、「――おれにゃあずっと、かあちゃんがいなかったから」

繁次は頭を垂れた。

「長屋の者が悪く云ってるってことは知ってるよ」と参吉が云った、「人のわる口を云うのに銭はかからねえからな、云いたい者には云わせておけばいいさ」

それからさらに云った、「そんなことを気にしてくれなくってもいいぜ、繁ちゃん」

繁次は黙って頷いた。

おれとは段が違うんだな、とあとで繁次は思った。おひさに蟹を捕ってやっていたときのこと、鉄や与吉を追っぱらってくれたが、どなりもしなかったし威しもしなかった。

――いっちまえよ、鉄。

そう云った静かな声が思いだされた。まだこっちは坊主頭で遊び相手もないとき、将棋をやろうと云ってくれた。知らなければ覚えればいいさ、うちへ来ないか。そうして、覚えの悪いおれに、半年も辛抱づよくつきあってくれた。

――おめえはだめだな。

舌打ちをしてそう云われたとき、おれはのぼせあがるほど癪に障った。癪に障ったのは本当はあいつのほうだったろう、半年も辛抱づよく教えたのに、いつまで経っても手があがらない。誰だっていいかげん飽き飽きするさ、それをおれはかっとなって殴りつけた。